
一緒に働いているT君との付き合いは長い。
元は20年ほど前に彼がデザインをしていた自身のブランドを僕が買い付けに行ったのが始まり。ディテールが面白く、それでいて適度にトラッドというか、オーセンティックなものがベースにあるものが多く、かなり個人的にも好きな感じだった。
当時にそのルーツはどこにあるか聞いた事があり、その時彼が言ったのはFIT在学中に学内のミュージアムであった特別展示。
1987年の「Three Women」ファッションの歴史的にも非常に大きな影響を与えた3人の女性デザイナー展。その3人というのが Madeleine Vionnet、Claire McCardell そして Rei Kawakubo。中でも、彼はそれまで聞いた事も無かった日本人女性デザイナー、川久保玲に衝撃を受けたそうだ。以来、彼にとってコムデギャルソンは特別のブランドになったようだ。僕にとってもコムデギャルソンは特別のブランドだ。

ただ、最初の出会いはさらに10年くらい遡る。あれは確か1979か、80年だったと思う。それまでVANを中心に、J.プレスとかアイビーブランドか、高校時代からのメンズビギや、グラスメンズ、メルローズなんかのDCブランドの先駆けにも影響を受けていた時代、なんとなくその延長で見つけたブランド、Y's for men そしてコムデギャルソン オムに最も傾倒していたと思う。中でも、最初は何と読むのか分からなかく、コムデギャルソン ホメとまで呼んでいたオムには一番衝撃を受けた。その当時のいわゆるカタログというか、イメージブックの写真が強烈で今でも覚えている。オムのテーマは確か「働く男の服」。当時のオムの営業マンたちがモデルで、青山トンネルをオムの服に身を包んで数人で一緒に走っている写真だった。これがめちゃくちゃカッコ良くみえた。
働く男の服。
アメリカのワークウェアなんかじゃない、そのまま日本の作業服の延長。
ヘタしたら特攻服。
カーゴポケットがついたパンツもあったはずだ。
モデルも、服も、その写真もみんなカッコ良かった。
これが一番最初に受けた、いわゆるファッションの衝撃。
今思うと、これを川久保さんがデザインしていたのかは不明。

オムの当初は別にデザイナーが存在していたという話もいろいろと聞いたし、当時の営業マンは後にちょっとした知り合いになり、そのO氏からも聞いた事がある。
ま、真相はどうでも、その時のコムデギャルソンオムがカッコ良かったのは間違いない。普通の作業ズボンなんだけど、ケツのポケットの上にオムとでっかく入ったレーベルが縫い付けられていて、これがまた当時の僕にはたまらなかった。そんな事を思い出した。もう業界に身をおいて30年ほども時間が経ってしまい、一体自分はどこからこんな事になったんだろうと時々考えたりする。時間は経ってしまったが、基本的に好きなものはあまり変わっていない気がする。そしてその全ての原点が、きっと最初にオムのあの写真を見た時なんだろう。
実はもう一つ思い出す事がある。1981年か2年頃、当時飛ぶ鳥を落す勢いのあったデパート、西武パルコ。その池袋店であったイベント。記憶が確かでないが、タイトルは、「ニューヨークの7人」。当時のNYで活躍する新人デザイナー7人を西武が買い付け、その7人のランウェイショーを店内で開催したもの。僕は偶然ここに居合わせたのだけど、そのショウを見る事ができた。今では名前を全部思い出す事はできないが、確かピンキー&ダイアンもその一人だった気がする。だけど、僕が衝撃を受けたのは、真っ赤や、きれいなブルー一色の無地で最初から最後まで通したデザイナー。ロナルダス・シャマスク。彼の洋服を初めて見てかなりショックを受けた。海外が遠くて、NYなんか月とおなじくらい遠かった時代の話。

今NYに生活して洋服を作っている事を考える時、あの時の事、「ニューヨークの7人」を思い出す。本当に人生ってのは何がおきるかわからないもんだ。しかも、その当人、シャマスク氏は僕らの事務所から1ブロック先にアトリエを構えていて今も現役でNYファッションウィークに参加している。いつか会って話す機会もあるのかもしれない。
川久保さんもいつか会ってみたい人の一人です。
いろいろなインタビューを読んだり、ドキュメンタリーを見たり、本を読んだりしてますが、本当のところは会って直接話してみないと分からないだろうなあというのがあります。でもな、本人を目の前にしたら凍ってしまうだろうなあ。昔、ロンドンのポートベローでポール・ウェラー氏に会ったときのように。
写真はFWKというEGのウィメンズ版のルックブックを撮影してた時のスナップ。以前はウィメンズには全く興味なく、絶対にできないと信じていたものですが、ひょんなきっかけで始まり、今は何だか別世界のようですが、正直楽しいです。やってみないとわからないもの人生なんでしょうかね。
ではまた次回。
鈴木 大器 DAIKI SUZUKI
NEPENTHES AMERICA INC.代表
「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。
1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。
09年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。