
丁度サンクスギビングの直後にハワイに行く仕事があり、そのためノースショアまで毎日のように出かけて行き、当然現地のパタゴニアのショップを覗いたりもしたのだけど、その時に、この広告を初めて見た。でっかいポスターで、キャッチが、Don't buy this jacket. 最近は歳で、目が悪くなってきてるので、新聞でもなんでもビジュアルと、大見出しくらいしか読まない。で、これもタイトル読んで、勝手に「ああ、どっかでパタゴニアの偽物がいっぱい出てるんだなあ」ぐらいにしか思わなかった。ま、インパクトは確かにあったけど、あのタイトルだからね。でも、まさかNYタイムスに全面広告打っていたとは知らなかった。

その後、各方面からいろいろとこの広告に付いてのコメントを聞く事になり、あらためて興味がわいてきて、全文を読んでみた。ま、最初の印象は、何かしっくりこないなあというのが正直な印象。どんな計画だったかは知らないけど、この広告は発案から用意周到に計画れたように感じた。単純にインパクトがある広告としては、この手のやり方はどっか別のところでも見た気がする。
内容に関しては、ま、ここが一番皆が賛否両論ある部分で、はたして素晴らしい会社のポリシーなのか、ただの偽善者なのかってことだが、多分やってる側の方は、かなり満足してるというのは確かだろう。
ベネトンとかの広告にも同じことを感じるときがある。個人的には、廻りから、例えば日本の捕鯨に反対してるシーシェパードを支援してるからとか聞くんだけど、ユニクロと違って、そういうフィロソフィー的な部分ではパタゴニアの場合、全く気にならない。所有してるものも結構ある。特にウェットスーツとか、サーフィンものや、アフター用のジャケット類。だからことさらパタゴニアに対してアゲインストなものは何もないんだけど、ちょっと気になった。パタゴニアの会社は素敵なポリシー持っているし、創業者のイヴォン氏をアウトドアマンとしても尊敬してるけど、何か今回のようメッセージを全面に出す感じでない方がスマートというか、カッコ良かった感じがちょっとしただけ。もちろん環境保全とか今現在続けてる運動促進に力を入れるのは全くもって素晴らしいと思うし、そういう事を始められる会社はカッコ良いと思います。

一緒に働く仲間で、この手の運動に関しては非常に積極的なT氏にも意見を聞いてみたところ、彼は大絶賛。世界中のどこにこれだけガッツの要る広告が打てる会社が存在するだろうか。誰かがやらなければいけなかったもので、それがパタゴニアだったということらしい。何となく彼からの反応は想像できた。ま、改めて考えてみるとそうなのかもしれない。うがった見方をするのは、僕個人のひねくれた性格がそうさせたんでしょう。
Reduce, Repair, Reuse, Recycle, Reimagine
謳っている事は非常に良くわかるし、その通りだと思う。
個人的には、それに原発廃止を上乗せしてほしいくらいだ。

と、ここまで書いて最初に感じた、どっかでみた広告を思い出した。あれは確か糸井重里さんが関わっていた昔のポパイの裏表紙にあった Jプレスの広告。一連のあの広告は、いつも挑戦的なキャッチコピーがあり、興味を惹かれて内容を読まずにはいられなかった。未だに何編も記憶に残る広告の傑作だと思っている。
それを考えると、このパタゴニアの広告は大正解ということか。
明けましておめでとうございます。
年頭にふさわしいのかどうか、こんな話になってしまいましたが、パタゴニアも押し進めるこの持続可能な世界を実現する動きは遠い先の未来のためではないようです。たまにはそんな事を考える正月も良いのではないでしょうか。
実はクリスマス直前にぎっくり腰をまたやってしまいました。
毎年恒例のセントラルパークのミッドナイトラン、そして元旦サーフィンも中止です。これもいろいろな意味での警鐘として今年はもっと健康に気をつけようと思います。
二千十二年 正月
ではまた次回。
鈴木 大器 DAIKI SUZUKI
NEPENTHES AMERICA INC.代表
「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。
1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。
09年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。