
今展示会のために東京滞在中です。
こちらに来て直ぐに日本のニュースサイトで、気になる見出しがありました。NY Timesの多分、日曜版スポーツセクションで、Lost Yankeesと題して井川慶選手の記事が3ページにわたって特集されているというもの。日本の記事ではかなりざっくりの説明だったので、すぐにNYTのサイトで、件の記事を探し出した。ネットでは5ページにわたって記載されていて、内容は非常に興味深いものだった。2007年のデビュー以来、不調続きで翌年の2008年を最後にメジャーではたった16試合しか登坂せず、5年契約の大半をマイナーリーグのAAA、あるいはAAで過ごし、途中でのトレードもなく、日本球団への復帰も本人自ら断り、まもなく契約を終了する見込みのようだ。
かのブライアン・キャッシュマンは、ヤンキース最大の失敗と明言するほど。その評価は、かなり厳しい。毎試合、マイナーリーグの現場までマンハッタンの自宅から、自家用レクサスを通訳に運転してもらいながら通い続ける日常や、誰よりも早くにグラウンドに現れてウォームアップを始めるなどの内容を読んでると、ちょっと切なくなる。以前地元紙の決めるヤンキース最悪選手リストでもトップに選出されていたと思う。
実をいうと、この記事を見つけるまでは井川の存在さえ忘れかけていた。松井がいなくなり、ヤンキースにはもう日本人選手はいないものだと。
89年にアメリカへ渡った僕は、井川の事はあまり知らない。イチローや、松井、松坂は知っていても、井川の事は日本の野球好きの友人や、知り合いから伝え聞いた程度。それでも地元ヤンキースとして期待はしていた。デビュー試合でノックアウトされたときも、その太々しい対応に批判が集まったときも、僕は何か、おもしろそうなやつではないかなと思っていたりしていた。だけど、かれのメジャーでの活躍はないままにその名は、消えてしまった。
いや、実は僕は知っている。彼の素晴らしいメジャーでの活躍を。
目の前で、これでもかと見せつけられた事がある。
2007年4月28日。
鳴り物入りでメジャー入りしたレッドソックスの松坂と、松井対決を見るために、ヤンキースとの3連戦を、三試合ともチケットを取って見に行った2日目だった。松坂が初日に登板したので、2日目はほぼ松井目当てだったのだけど、先発のヤンキースの投手が、初回、無死1、2塁で、打球を足に直撃、突然の降板。初回ということで、誰もアップができておらず、一体誰がここから引き受けるのかと思っていたところで、井川のアナウンス。期待していなかった2日目の試合は、突然の日本人投手の登場で面白くなった。それまでの登坂内容が良くなかっただけにあまり期待はしていなかったけれど、井川を目の前で見られる事に喜んだ。そしてこの日は、見事なピッチングで、7回まで無失点。久々にみた素晴らしい内容に感動してしまった。あの初回のアクシデントの後、淡々と登場してきては、ほぼパーフェクトの投球内容で7回まで投げ切った井川は、もちろん勝利投手に、そしてその日一番輝いていた。
今回のNYTの記事を読みながら、あの試合の記憶が蘇ってきた。結構ネガティブな記事内容のなかで、記者はかならずあの試合の事を書いてくれているはずだと信じていたのだけど、最後までそれに関しての記述はなかった。怪我もあったし、投球フォームの改造など、ちょっと残念なながれが重なったと思う。だけど、何か彼はもう少しできたはずだ。5年間で、16試合のメジャー登板は、あまりにも少なすぎるチャンスのような気がしてならない。今シーズンの終了で契約が切れる。井川自身は永住権の取得もあって、日本の球団への復帰はあまり考えてないのではないかな。マイナーリーグでも、きっとどこかアメリカの球団にオファーを貰って行くのだと思う。なんか、そんな男のように思う。願わくば、その球団でチャンスをつかみ、かならずメジャーの舞台に戻ってきてほしい。そして、ヤンキースのフロントに見せつけてやってほしい。彼ならきっとできると信じている。
記事中で苛つくのは、ブライアン・キャッシュマンのコメント。ヤンキース最大の失敗だったという、井川に向けた非難。そんな事をいうなら、もっと以前に所属していた日本人投手の方がもっと失敗だったんではないかなと個人的には思うのだけどね。
写真は、本当に本当に申し訳ないのですが、また海の写真です。別に良い写真でもなんでもないのですが、それしか画像がなくて、これは出張直前に波もないのに無理矢理出かけてきたロングビーチのものです。
次回はきっと何か違う写真用意するように頑張ります。
ではまた次回。
鈴木 大器 DAIKI SUZUKI
NEPENTHES AMERICA INC.代表
「ENGINEERED GARMENTS」デザイナー。
1962年生まれ。89年渡米、ボストン-NY-サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。
09年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。